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ニホンヤマネと大成建設 第2回 森の架け橋“アニマルパスウェイ”

アニマルパスウェイとは?

森の中で、ヤマネやリス、ヒメネズミなどの樹上性動物は、木の枝から枝をつたって森の中を移動し、餌やパートナーを探したりしています。これらの動物にとって木の枝は移動経路であり、欠かせない「道」の役割を果たしています。
森が道路開発などによって分断され樹上性動物が移動経路を失うと、道路を無理に横断してロードキル(道路上での轢死事故)に遭ったり、餌を採取しにくくなったり、繁殖機会が減少してしまうなど、個体数の減少につながってしまいます。

「アニマルパスウェイ」は、開発によって失われた移動経路を確保するための、いわば森に架ける橋なのです。

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アニマルパスウェイの開発と実証実験

2004年春、清里のやまねミュージアムに集まったアニマルパスウェイ研究会のメンバーは、ヤマネの棲む森の状況やヤマネブリッジを視察しました。
その上で「アニマルパスウェイの形状や材質をどうするか」「ヤマネブリッジよりもコストをできる限り廉価なものにするにはどうすればいいか」など意見を出し合いました。公益財団法人キープ協会のヤマネ博士の湊先生からは「100万円でできない?」との発言がありましたが、2000万円のヤマネブリッジに対して1/20にコストダウンするのは至難の業に思えましたので、目標は1/10の200万円(本体と工事費込)としました。

アニマルパスウェイは道路の上に設置するものですので、車や人に安全でなければなりません。自然と同じ木造が好ましいかもしれませんが、有機物は腐りやすいため落下する危険があります。そこで、鋼製ワイヤーやアルミ、銅などの金属を用いて、なるべくメンテナンスが不要である材料を選ぶことにしました。

ヤマネによる実証実験

ヤマネによる実証実験

「ヤマネたち野生の哺乳類がワイヤーやアルミ製の構造物を利用するだろうか?」という点を確認するため、数々の実証実験を行いました。
やまねミュージアムはニホンヤマネを保護し生態を研究する機関でもあり、近くの別荘地などで冬眠していて保護されたヤマネが持ち込まれます。これらを保護して野生に戻すための施設がミュージアムには完備しており、その施設を使ってヤマネがワイヤーやアルミを嫌がらないかミュージアムのスタッフが徹夜で観察し、どの太さのワイヤーが最適かなどの実験データを取りました。その結果、ワイヤーを嫌がらず、太いほど利用率が高いことがわかりました。

アニマルパスウェイを利用する可能性のある樹上性の野生生物はヤマネだけではありません。夜行性の動物としてはニホンヤマネ(英語ではDormouse)と同じほどの大きさでやはり日本固有種のヒメネズミ(Small Japanese Field mouse)あるいはムササビやモモンガなども考えられます。昼行性ではすでに九州や中国地方では絶滅が危惧されている個体群のニホンリスがいます。いずれも枝から枝を主な通り道として利用するので、道路などで分断された森では道路上で交通事故に遭う確率が高くなります。

多様な種類の樹上性動物が利用できるために

ケージ内での模型実験風景

ケージ内での模型実験風景

開けている所を好むリスに対し閉所を好むヤマネやヒメネズミなど、それぞれの習性や好みは様々です。そこで、形状を正三角形のトラス型の吊り橋とし、吊り橋のメインケーブルには鋼製ワイヤーを用い、アングルフレームも鋼製のものを適用しました。
雪やつららは道路を利用する車や人の安全性に最も関係します。積雪などで最も荷重がかかると思われる屋根や床は、積雪が溶けやすいように熱伝導率の高いアルミと銅メッシュを組み合わせた構造としました。ニホンヤマネは逆さ歩きを好みますので、屋根の下にロープを張りました。支柱はコストを削減するためにもどこにでも建っているコンクリート製電信柱です。これらの模型を作ってケージ内に設置し、屋根などを利用するかどうかも確認しました。これらの検討に1年半を掛けました。

実証用アニマルパスウェイの積雪状況の調査

実証用アニマルパスウェイの積雪状況の調査

2005年10月、キープ協会の所有する敷地内の私道上に、初めて実証用のアニマルパスウェイを架設しました。本当に動物が利用するかをモニタリングして確認するため、TVカメラ2台と支柱の隣にもう1本支柱を立て取り付けたBOXにデータレコーダーを収納しました。
アニマルパスウェイは山間部に設置される可能性が高いので、標高約1300mの場所に設置された実証用アニマルパスウェイでは積雪・融雪状況を確認することも目的のひとつでした。氷点下10度程度でもアルミや銅の熱伝導率はきわめて高いため、積もった雪がすぐに溶けることがわかり、つららはできないことが実証できました。

しかし、なかなか動物が利用する映像は得られません。意を決したモニタリングシステム担当メンバーの一人が、5月の連休に寝袋持参で現地に赴き、目視観察しながらカメラをセットして待ちました。すると、なんともタイミングの良いことに、観察をスタートして間もなく、青空をバックにアニマルパスウェイをニホンリスが見事に渡ってくれたのです。幸い、この時の状況をデジタルカメラのムービー機能で撮影できました。

初めて撮影したアニマルパスウェイを渡るニホンリスの連続写真

初めて撮影したアニマルパスウェイを渡るニホンリスの連続写真

さらに手持ちの望遠レンズのアナログカメラでも同時に撮影するという奇跡的な神業で、素晴らしい写真も撮れました。まだ朝の9時半ごろでしたが、早速現地からヤマネ博士や研究会メンバーに電話がありました。実際に見ることはできませんが、皆さん飛び上がって喜んでいたようです。

アニマルパスウェイ研究会

やまねミュージアム