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法然上人ゆかりの地に、300年来の悲願である五重塔が建立 Vol.029 法然寺五重塔

「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス」の名言で知られる江戸時代の名将徳川家康の孫で、讃岐国(現 香川県)初代高松藩主を務めた人物をご存知ですか?
その人物とは、水戸徳川家の長男として生まれた松平頼重であり、「水戸黄門」として有名な水戸光圀の実兄にあたります。

江戸時代初期の1642年に初代高松藩主となった頼重公は新しい藩政に心血を注ぎました。
現代では讃岐の文化になっている「讃岐うどん」も、頼重公が藩中の製麺業者を奨励したことから発祥しています。
1668年、この地に法然寺を開基しました。かつて、浄土宗の開祖である法然上人が四国に流されてから住んでいた小松庄生福寺の遺跡を、頼重公が菩提寺の建立にあたり仏生山に移転し、「仏生山来迎院法然寺」として再興したのでした。

完成図

完成図

平成の五重塔を建てよう!

2005年3月のコンペでスタートし、2011年2月の完成を目指して現在も進行中の法然寺五重塔建立プロジェクトの発端は300年以上も前の江戸時代初期に遡ります。その発起人こそが先ほどご紹介した頼重公であり、法然寺の山号である「仏生山」から出現した舎利(お釈迦さまの遺骨)をお祀りするための仏塔を建てようと五重塔建立の計画を進めていましたが、実現を見ないままお亡くなりになりました。

時代は流れ、2011年は法然上人の没後800年大遠忌を迎える年に当たります。
その記念事業の一環として、法然上人25霊場の第2番札所である仏生山法然寺では、頼重公の悲願でもあった五重塔を、伝統工法に現代の最新技術を加えた平成の五重塔として建立しようということになりました。

素屋根がかかった工事現場風景

素屋根がかかった工事現場風景

私が取材で訪れた2010年2月には、五重塔の五重目までが既に組み上がり、仮設された素屋根(建物を風雨から守り、安全に作業するために設けられる屋根や囲い、足場のこと)に丸々覆われていました。初めて足場を踏みしめながら、高さ約18m地点の五重目を目指して登りました。塔の中心に立っている心柱をはじめ、木材の大部分には吉野桧を使用しているためほのかな香りが漂っています。

歩くたびにミシ、ミシ、と音を立てて小刻みに揺れる足場の上を、木材を片手に軽やかに移動する宮大工さん達を横目に五重目に到着すると、屋根を組み上げていくための準備が進められているところでした。塔を貫くように天に向かって中央に立つ心柱にはご住職様の筆で「南無阿弥陀仏」と浄土宗の宗旨が刻まれており、五重塔に込められた強い想いを感じました。

五重目の様子

五重目の様子

ご住職様の直筆(心柱)

ご住職様の直筆(心柱)

四重目へ降りてみると、既に貼られた屋根板の上に瓦が徐々に敷き詰められているところを間近に見ることができ、瓦の敷き詰め方にもひと工夫されていることを知りました。

作業所長 中西 良直

画像瓦を敷き詰めていく際には、1枚の瓦に対し次の次の瓦が、すなわち2枚上の瓦が1寸重なるように縦に重ねていき、その列を横幅に合う分だけ作っていきます。そうすることで外に晒される部分が破損しても、1枚下の瓦の折り重なって隠れていた部分が表れるため屋根板が剥き出しになって雨が漏れることを防ぐことができます。

本瓦の本葺工程の内、平瓦を置いた状態

本瓦の本葺工程の内、平瓦を置いた状態

現場で正確な施工ができるように実物の1/20と1/3の模型を実際に宮大工さんが製作して皆で検討を重ねました。
各層では木々が精巧に組み上がり、いくら目を凝らしても木と木の継ぎ目がどこにあるのか分かりません。

いずれにしろ、今まで体験できなかった工事を担当することができ、大事に安心・安全に進めることを考えています。

塔の一番下まで降り、初重の中へ入ってみると、中央に心柱を中心に四本の柱(四天柱)が立ち、小さな空間を構成していました。この空間内には五重塔の要である仏舎利が、心柱の手前にくるように配置されます。
五重塔はもともと、仏様の遺骨を祀るために創られたため塔自体がお墓なのだそうです。

仏舎利(完成図)

仏舎利(完成図)

理想の五重塔をデザインする

今回のプロジェクトでは、「大らかでどっしりとした力強さを持つ五重塔」というコンセプトを実現するために、まず塔の全体像を検討することから始まりました。五重塔は塔の高さや五重のバランス、細かな意匠デザインなどによって雰囲気が異なってくるため、最新の設計技術を用いた検討が繰り返されました。

  • 塔の高さは800寸
    法然上人の800年大遠忌に合わせ、塔の基壇上の高さを800寸(24.24m)に決定しました。6階建てのビルの高さに匹敵します。
  • 全体のプロポーション
    下図は、各時代の代表的な五重塔を時系列で図表にしたものです。全体のバランス次第で五重塔の印象が異なることが分かります。

画像

全体のバランスを大きく左右する要素としては、初重から五重にかけて各層の柱間寸法を小さくしていく割合である「逓減率」と、総高に対する相輪高さの割合があります。今回のコンセプトに最も適した五重塔を設計するため、個々の特徴を持つ様々な五重塔を分析し、参考にしました。

設計本部 建築グループリーダー 松尾 浩樹

画像塔の総高を800寸にした提案はご住職にも大変好評でした。相輪(屋根のてっぺんに取り付ける寺紋を配した水煙)は全体のバランスから計測し、総高の約27%(約6.5m)が最適であると判断しました。大らかでどっしりとした力強さを持つ五重塔を目指した結果、逓減率は0.625となりました。

今回の五重塔は本瓦であり、塔全体の重量は120tになります。心柱は相輪以外のどの部材とも触れていない構造になっているので、年月とともに周囲の部材のみが下がり、相輪を受ける露盤との間に隙間が出来ることも考えられます。その対策として将来心柱に油圧ジャッキを噛ませ、心柱の高さを調節できるような工夫をしています。

今回のプロジェクトでは、このように特に設計や構造において伝統工法に現代の技術をプラスし、新しい、平成の五重塔を築くことができました。
木造建築の設計に携わる者として、なかなか手掛けられない貴重な機会に恵まれたと思っています。

地震にも台風にも負けない構造

過去の記録では地震で倒れた五重塔はないと言われているように、もともと地震に強い構造である五重塔ですが、法然寺五重塔ではさらに磐石な塔にするため構造解析を行い、転倒防止補強としてタイロッドを付加的に設けました。
また、模型を制作して風洞実験を行い、解析結果をもとに台風による倒壊を防ぐための検討を十分に行いました。

画像

(拡大)

鋼材を初重の屋根部分の四隅に、木を傷つけないよう軸組にはさんで固定。タイロッドのジョイント部材の役割を果たします

鋼材を初重の屋根部分の四隅に、木を傷つけないよう軸組にはさんで固定。タイロッドのジョイント部材の役割を果たします

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