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水で国を守る!!世界最大規模のLPガス地下岩盤貯蔵施設 Vol.028 LPガス国家備蓄 波方基地

地下貯槽

地下貯槽

点々と光る工事用ライトの光を頼りに12.5%の急勾配のトンネルを時速20kmの車で下っていきます。地上の入口から数分で地下180m地点に到着し、ひんやりした空気に包まれる中、目の前に広がる光景に圧倒されている自分がいます。なぜならそこは10F建てのビルが丸々入る程の高さがある巨大トンネルの中なのです。ここは瀬戸内の温暖な気候・穏やかな海に囲まれた愛媛県今治市波方町の地下です。
この海の町の地下に石油ガスの国家備蓄基地が建設中とご存知の方は少ないのではないでしょうか。石油ガスの国家備蓄基地の存在自体も初めて聞くという方も多いかもしれません。今回は大成建設が手掛ける国家プロジェクトについてご紹介いたします。

LPガス国家備蓄基地

LPガス国家備蓄基地(拡大)

現在、LPガス(液化石油ガス:Liquefied Petroleum Gas)は日本国内の約2600万世帯で使用され、タクシー等の燃料としても利用されています。その供給量の約75%(2008年)を輸入に頼り、その約86%(2008年)を中東諸国から輸入している状態であり、有事の場合その供給がストップし、国民生活に支障をきたす恐れがあります。そういった場合に備え、年間輸入量の約30日分に相当する150万tを国家備蓄として、約50日分に相当する250万tを民間備蓄として確保することをエネルギー基本計画で定められています。
その一翼を担うために建設中なのが、今回ご紹介するLPガス国家備蓄波方基地です。波方基地は約45万tのLPガスを貯蔵できる国内最大の規模を誇ります。しかも「水封式地下岩盤貯蔵方式」では世界最大の大きさになります。

LPガスの貯蔵方式には「水封式地下岩盤貯蔵方式」(以下地下岩盤貯蔵方式)と「地上タンク方式」の2種類があります。地上タンク方式は読んで字の如く地上にタンクを設け貯蔵するもので国家備蓄基地として国内に3ヶ所あります。
一方波方基地のような地下岩盤貯蔵方式は地下にトンネルのような空洞(貯槽)を掘りLPガスを水の圧力によって常温(約20℃)の液体として貯蔵する方法です。地下岩盤貯蔵方式は地下を利用することで地上用地を少なくすることができ、天災の影響を受ける可能性が低く、大気と遮断されるため火災・爆発の恐れがないという利点があります。

では、波方基地の基本構造と施工工程について簡単に説明します。

当工事は大きく分けて4つの工事工程からなります。150m〜180m地点にLPガスを貯蔵する貯槽と水封トンネルにアクセスするための(1)「作業トンネル」を全長約1800m掘削します。次に、今回のプロジェクトの要となる(2)「水封トンネルと水封ボーリング」を施工し、LPガスを貯蔵するための(3)「貯槽」を施工します。最後に、水封水を供給するための(4)「水封水供給設備」を施工します。

貯槽施設全体図

貯槽施設全体図

作業トンネル

作業トンネルは私が車で下った道になりますが、貯槽を施工する地下180m地点に最短でアクセスでき、施工可能な勾配として12.5%の急勾配となりました。急勾配であるため掘削ずり(掘削で出た岩や土)を積載したダンプトラックが上るのに苦労したこともあったそうです。ちなみに、操業時には水で満たされ、入ることが出来なくなります。

水封トンネルと水封ボーリング
水封式地下岩盤貯蔵方式

水封式地下岩盤貯蔵方式(拡大)

貯蔵されるLPガスは常温・常圧では気体ですが、低温・常圧または常温・高圧にすることにより液化し、体積が気体時の約250分の1となります。今回貯蔵される地下150〜180m地点では、常温(約20℃)で液化させ貯蔵するために、0.97MPa以上(設計圧)で加圧することが必要になります。これは約9.6気圧に匹敵する圧力です。

そこで、今回採用された地下岩盤貯蔵方式では水圧により1.5MPaの圧力を常にかけ続けることで常温でもLPガスを液体状態に保つという仕組みになっています。LPガスの入った貯槽をプールの中に構築し、水で覆っているようなイメージです。圧力を安定してかけ続けるためには水を流し続ける必要があり、そのために「水封トンネルと水封ボーリング」という技術が必要になります。
貯槽の周辺岩盤に水封ボーリングと言われる直径90mm、平均長さ50mの孔を417本(約10m間隔で)削孔し、そこに水を供給することで圧力を保ちます。水封ボーリングの施工と、これらに水を供給するためのトンネルが水封トンネルです。LPガス貯蔵中はこの水封トンネルと水封ボーリングから水を供給し続けます。

貯槽

貯槽は、高さ30m、最大幅26m、長さ485mにも及ぶ卵形のトンネルのような巨大な地下空洞です。これが2本あります。世界最大のシールドトンネルである川崎市と木更津市を結ぶ東京湾横断道路(4車線,将来構想6車線)でも高さ・幅ともに約14m程度です。また、鎌倉の大仏が高さ13.35mですので丸々2体が入る程の大きさになります。

断面形状比較

断面形状比較

これほど断面が大きいと一度に掘削することはできないため、5段に分割して上から順に掘削しました。掘削は、発破→ずり出し(掘削で出た岩や土などを外部に運ぶこと)→吹付コンクリート(掘削した部分をコンクリートで固めること)・ロックボルト(岩盤にボルトを締め付け安定させること)→発破→・・・ というサイクルを繰り返していきます。なんと当工事全体で出たずりの量は200万m3にもなり、これは東京ドーム約1.6杯分に相当します。

発破

発破

ずり出し

ずり出し

コンクリート吹き付け

コンクリート吹き付け

大空洞であるため、空洞の安定性を確認しながらの施工は言うまでもありませんが、施工中も貯槽周辺岩盤内の水圧を下げることは許されないため、常に水圧の計測と地質の調査を行い、水圧に異常が発生した場合は、原因分析と対策を実施し、問題のないことが確認されなければ、工事は進められないという難しさがありました。ちなみに私が車で降り立ったのはこの貯槽であり、LPガスが封入されてしまうと二度と中には入れなくなってしまいます。

1段ベンチ掘削

1段ベンチ掘削

2段ベンチ掘削

2段ベンチ掘削

4段ベンチ掘削

4段ベンチ掘削

水封水供給設備

水封水供給設備は、417本の水封ボーリング孔のそれぞれに、水封水を供給する配管設備です。貯槽掘削中も、仮設の水封水供給設備によって水封水を供給し、岩盤亀裂内の水がなくならないようにします。
仮設の水封水供給設備を取り外すと地下水位が急激に低下し、岩盤亀裂内の水が無くなり、操業時にLPガスが漏洩する経路となる可能性があるので、仮設から本設へ水封水供給設備を徐々切り替えていきます。

本設の水封水供給設備は、水封トンネル内に設置され、水没させるため、耐食性の高いポリエチレンやFRP(Fiber Rienforced Plastics:繊維強化プラスチック)などの樹脂系材料を使用しています。
水封ボーリング孔と水封水供給設備はパッカー(水中不分離性のセメントを注入することでゴムが膨らみボーリング孔と水封水供給設備の間を完全に留めるもの)で接続され、二重管構造になっていますので、水封ボーリング孔内の水を定期的に循環させ、滞留を防止することができます。

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