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いつ来ても昔のまま。何も変わらない Vol.022 日光金谷ホテル

日光へ行くなら一度は泊まってみたい憧れのホテルがあります。それは「日光金谷ホテル」です。
現存する日本最古のリゾートホテルであり、その建物は2005年登録有形文化財に登録されました。

「日光金谷ホテル」は1873年(明治6年)に創業し、外国人向けの宿泊施設としてスタートしました。
その存在は横浜、東京の外国人たちの間で口コミによって広まり、明治末期には日光を代表する外国人リゾートホテルとして知られるようになりました。

大正時代に入り日光が国内外の要人の交歓・社交の場としてさらに発展し、英国皇太子殿下のお立寄りをかわきりに、外国王室、国内宮家のご宿泊など多くの貴賓客を迎えるようになりました。
現在、本館ロビーに隣接した展示コーナーでは、アインシュタイン博士、へレン・ケラーなどが宿帳へ残したサインをご覧いただけます。

日光金谷ホテルの魅力は寛ぎを与えてくれるホスピタリティなど多々あると思いますが、その魅力のひとつには、伝統を感じられる建築もあるでしょう。
明治期に建てられた「本館」と「新館」
昭和初期に、建てられた木造建築の「別館」
昭和30年代後半に建てられた鉄筋コンクリート造の「第二新館」
というように、明治開業当初の趣を残しながらも増改築を経て、現代に至っています。

左側が本館 右側が別館 本館は当初2階建てで、前面にテラスと車寄せがありました。1935年地下を掘り下げて3階に増築され、今日の姿に至っています。

左側が本館 右側が別館
本館は当初2階建てで、前面にテラスと車寄せがありました。1935年地下を掘り下げて3階に増築され、今日の姿に至っています。

メインダイニング前の階段

メインダイニング前の階段

守り続けるために

明治、大正、昭和、そして平成と、130余年もの時を記憶した空間を変わらず守り続けるために、2006年1月〜4月まで日光金谷ホテル様は、営業を休止されて耐震改修・内外装改修工事を実施されました。
日光金谷ホテル様の思いをくみ、地図に残る仕事のお手伝いをしたのが、大成建設です。株式会社アルコム様の総括のもと耐震改修及び内外装・設備改修工事を実施しました。

耐震改修設計時のコンセプトとして

  • ホテルの文化財的価値を損なわないこと
  • 耐震補強の改修量を極力抑えること
  • 既存の空間に違和感を与えない補強にすること

という金谷ホテル様のご要望を反映させることを目指しました。

工事は寒冷地における冬季施工のため、特に躯体におけるコンクリート打設後の養生を的確に実施しました。
工事中の歴史的な木造建築物の破損崩壊、火災事故に対して万全を期し、金谷ホテル様に全面的に休業していただけたお陰で、4ヶ月弱の工期で計画通りに施工を完了することができました。
今回の改修は、延べ1万名の作業員により短期間で改修工事を行いましたが、目標通り痕跡を残さず、今までのまま、百数十年の間何も変わらない雰囲気を保持することができたといえるでしょう。

耐震改修は、どの部分に施されたのか
本館 明治26年築 木造3階 軸組構造
重厚な木製の回転扉

重厚な木製の回転扉

重厚な木製の回転ドアを抜け、エントランスホールを見上げると、日光東照宮のモチーフを思わせるような華やかな彫刻が、欄干などに施されている。木造一部大谷石造であり、1階にフロントロビーとバー、2階に食堂と客室、3階に客室を配し、内部に和風意匠を採り入れている。

<改修のポイント>

  • 壁の少ない建物であったため、鉄骨フレームを建物内に挿入する方法を採用。
  • 既存の柱の脇に鉄骨を沿わせて、内観の変更を最小限に抑えた。
  • 既存の外観を損なっていた外部鉄骨階段を建物内に取り込み、補強フレームと階段室フレームの機能を併せ持たせた。
  • バリアフリーや快適さに対する配慮として、本館にエレベータの新設、浴室の新規設置及び、浴室のない2室を繋げてスイートルームに変更などの設計を行った。

鉄骨階段が増設されていたが、建物内に取り込み、新築当時の外観を復元

撤去前

撤去前

画像
撤去後

撤去後

新館 明治34年 木造2階 軸組構造
バンケットホール

バンケットホール

1階にはスパン14mの大空間(バンケットホール)が有り、屋外のバットレス(屋外控え壁)が補強の役目をしていた。2階は客室となっている。1階の大空間を確保する為、2階の床を屋根トラスから鋼棒で吊る独特の構造が採用されていた。

<改修のポイント>

  • 既存のバットレスのデザインは変えずに、バットレスの数を増やした。補強量は増えたが違和感の無い仕上がりとした。
    改修前

    改修前

    画像
    改修後

    改修後

    新館断面図

    新館断面図(拡大)

  • 客室は、前室の新設、ユニットバスの新設やヴォールトの天井など意匠上の変更を行った。
  • 特徴ある構造方式をお客様に見て頂けるように、2階の会議室の壁に、中の吊棒が見える覗き窓を設け展示観察できるスペースとした。
別館 昭和11年 木造3階 壁構造(水周りRC造)
竣工1935年(昭和10年)木造一部鉄筋コンクリート造 久米権九郎氏設計による独自の木構造

竣工1935年(昭和10年)
木造一部鉄筋コンクリート造
久米権九郎氏設計による独自の木構造

最も和風の外観をしており、和風の伝統構法で建てられているのかと思われたが、耐震木造建築の第一人者であった久米権九郎氏の設計による、2×4を思わせるような洋式の構造方式を採用していた。
昭和天皇やヘレンケラーも宿泊した客室などは、外国人の宿泊を念頭においており、猫足のバスタブのある洋風の浴室と、格子天井や網代天井など、日本建築の美しさを随所に織り交ぜるなど、洋と和が調和された空間である。

<改修のポイント>

  • 木ずり壁を構造用合板耐震壁に置換する「木」による耐震補強を施し従来と同じ空間とイメージを維持した。
竜宮・展望閣 大正10年 木造平屋 軸組構造・木造2階 軸組構造

本館南方の高台に位置しており、展望に配慮した開放的な造りである。プールとスケート場があり、季節に合わせて楽しめる空間となっている。

<改修のポイント>

  • 鉄骨フレームと構造用合板耐震壁の両方を取り入れた補強をした。

<客室内装イメージ>

  • 既存のアンティークなラジエーター・照明器具・設備機器の再利用など デザインの統一を図っている。

以上の補強方法により、各棟共、現状の利用状況や意匠に与える影響を最小限に抑え、日光金谷ホテル様の意に沿った補強をすることができました。

大成建設担当者より
設計本部 森田 仁彦

設計本部
森田 仁彦

過去に社寺建築など数々の木造構造物に携わってきましたが、今回の工事は構造や素材、年代の違う複数の建物を、同時期にそれぞれ最良の方法で耐震補強工事することが課題でした。
工事は2006年1月から始まり、工事着手前に調査のために日光金谷ホテル様には何度か伺いましたが、いつお伺いしても全面的にご協力していただき、調査はスムーズに進みました。
伝統あるホテルを、よい状態でさらに100年残したいという日光金谷ホテル様の社員皆様の熱意がひしひしと感じられ、その熱意に応えるために構造の部分でお手伝いできたのは、私自身にとりましても素晴らしい経験になりました。

工事期間中の屋根裏や壁を剥がして構造を確認する作業では、それぞれの建物でその時代の棟梁の知恵を垣間見ることができ、大変勉強にもなりました。
耐震のために配置したフレームを既存の建物とどう繋ぐのか、といった部分で苦労しましたが、外観のデザインや内装のイメージを変えないことに心を配りプロジェクトを進めてきました。宿泊される方が改修前と何ら違和感なく過ごしていただけると嬉しいですね。

工事概要

発注者

日光金谷ホテル

所在地

栃木県日光市上鉢石町1300

竣工

2006年4月

総括・建築

株式会社アルコム

構造

大成建設株式会社一級建築士事務所

URL

http://www.kanayahotel.co.jp/nkh/

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