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海に浮かぶ「風の塔」を知っていますか? Vol.008 川崎人工島換気塔

海に浮かぶヨットの帆?!

出張帰り、まもなく羽田という時に、飛行機の小窓越しに、海上に浮かぶヨットの帆のようにも見えるストライプの建造物を見たことはありませんか、あの建造物、何だかご存知ですか?

そんな疑問に答えていただくべく、今回はこの建物の全てを知っている建設当時作業所長をされていました嶋 規(しま ただし)氏(現:建築営業本部統括営業部長)に話を伺いました。

─あのストライプの建造物は何なのでしょうか?
全体図

全体図

まずは、プロジェクトの全体像についてお話ししましょう。ご存知の通り、東京湾アクアライン(東京湾横断道路)は、川崎と木更津を海底トンネルと海上橋で結ぶ15.1kmの道路です。川崎側から10kmが海底トンネル、木更津側から5kmが橋梁で、トンネルの中央部とトンネルと橋梁の接続部に人工島が造られています。

トンネルの中央部分にあたる場所にあるのが、飛行機からも見えるストライプの建造物にあたります。
この人工島は、トンネル工事のためのシールドマシンの発信基地として利用され、完成後は換気施設として利用されているのです。
そして、この建物には「風の塔」と言う名前が付けられています。

─換気施設なんですか!「風の塔」素敵な名前ですね!ところで2つの建造物で構成されているように見えますが、どうして2つあるのでしょうか?

それは、それぞれの塔に役割があるからです。
まずは小さい方の小塔(高さは75m)は、トンネル内の汚れた空気を排出する排気用ダクトになっています。そして大塔(高さ90m)は、新鮮な空気をトンネルに供給する吸気用ダクトになっているのです。
この「風の塔」が、微妙に傾いているのがわかりますか?円筒形を12度傾け、更に上部から斜めに切り落とした、さらに切り口も曲面形状になっています。そして大塔と小塔の隙間も風洞実験をもとに設計され造られているのです。
東京湾に吹く風は一年を通して南北方向に平均風速7mといわれています。風の流れをうまくキャッチし、高い排気効率を得られるように空気力学的(ベルヌーイの法則)に考慮された構造物なのです。

─へぇ、12度の傾きですか・・・このシンボリックな形状を造るのは、難しそうですね
人工島へ向かう

人工島へ向かう

工事がはじまる前、上司から「東京湾の真ん中にまさしく“地図に残る仕事”が始まるが、作業所長としてやってみるか、大変な仕事になると思うが・・・」との問いかけに「東京湾の真ん中」という言葉に惹かれ『よーし、やってみよう!!』と心に決め即答したのが思い出されます。
その後、すぐに現場視察を行うことになりました。ライフジャケットを身にまとい船で人工島へ移動し、初めて直径200mの人工島に降り立ちました。そこでは土木技術の英知を集大成した人工島工事とシールドトンネル工事が順調に進められていました。
初めて人工島に立った誰もが圧倒されたと思いますが、建築の現場育ちの自分にとっては、今までに味わったことのない“強烈”な印象を受けました。

直径200mの人工島

直径200mの人工島

プロジェクト最大の課題は、小塔の工事でした。現場施工が非常に困難なことと工期の短縮のために、人工島から至近距離にある富津の岸壁付きヤードで上下2分割した巨大な鉄骨のブロックの先行組み立てを行いました。
上部900トン、下部1,600トンの鉄骨のブロックは日本最大の4,100トン吊りフローティングクレーン船で2回に分け、海上運搬し据え付けました。

1回目の運搬で下部ブロックを据え付けた後、5日後に上部ブロックを接合する工程だったため、下部ブロック柱脚固定のため昼夜30数名の溶接工で作業が行われました。
5日後上部ブロックを据えクレーン船を人工島から退却させることができたときの安堵感は、言葉に言い表せないほどで、このプロジェクトを通じで最も大きいものでした。

フローティングクレーン船で下部ブロック運搬中

フローティングクレーン船で
下部ブロック運搬中

下部ブロック据え付け

下部ブロック据え付け

上部ブロック接合中

上部ブロック接合中

上部ブロック接合中

上部ブロック接合中

大塔工事

大塔工事

次は大塔です。
大塔は海上運搬された鉄骨を2基の400ton・mタワークレーンで組み立てていきました。
最大4.2トンの鉄骨をはじめ、合計約2400ピースの組み立て作業でした。

外装パネルの取付

外装パネルの取付

大塔の工事と共に外装パネルの取付工事もはじまりました。3.3m×5m 重さ3.5トンのタイル打込みのGRCパネルを400ton・mタワークレーンで取り付けていきます。
そして最大の難関は、塔がオーバーハングしている部分へのパネル取付けです。小塔の躯体は地上部で頂部より最大15mも内側へ入り込んでおり、通常のクレーン作業ではその部位の外壁パネルの取付けは不可能でした。そこでローラ付パネル台車に外装パネルをセットしてウィンチで吊り上げて取り付けてゆく工法を採用しました。

─お聞きするだけで、圧倒されてしまう工事ですね、なんと言っても海上での作業ですから驚きました。ところで機上からも確認できるこの印象的なストライプのデザインはどうやって決められたのでしょうか?
完成した「風の塔」

完成した「風の塔」

塔のデザインは、平山郁夫画伯と澄川喜一東京芸大学長(当時)が中心になって決められたと聞いています。東京湾という環境下、多くの船舶の往来があることを考慮し、外壁は群青色と白のストライプでカラーリングされ船舶からの視認性を高めてあります。

─最後にプロジェクトを振り返り、どのような思いをもたれましたか?
嶋 規

嶋 規

東京湾横断道路のプロジェクトは、まさしく日本国内の20世紀最後のビックプロジェクトでした。計画から完成まで約30年以上を要したプロジェクトの最終ページを飾る工事でした。12度傾斜した形状の海洋建築物としては国内最大規模である換気塔、その小塔ブロック(1,600トン)が日本最大のフローティングクレーン船で海上運搬されてくる様は、圧巻でした。まさに「地図に残る仕事」に携われたことを誇りに思います。

今このプロジェクトを振り返り、発注者・設計者の皆様をはじめ貴重な数多くのアドバイスをしてくださった当社土木部の関係者、建築部の皆様、そして若い社員を中心に構成された共同企業体のバイタリティあふれるメンバーが揃っていたからこそ成功できたプロジェクトだったと思います。改めてこのプロジェクトを成功に導いてくれた関係者の皆様に御礼を申し上げたいと思います。

工事概要

発注者

東京湾横断道路株式会社

設計者

株式会社日建設計

所在地

川崎市川崎区東扇島沖合約5km(川崎人工島)

起工

1996年3月

竣工

1997年12月

建築面積

3,028m2

敷地面積

31,400m2