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微生物の力で自然に還す

技術センター 建築技術研究所 環境マネジメント研究室 環境システムチーム 主任研究員
瀧 寛則

分野

その他

テーマ

環境・自然

「微生物」というと、「バイ菌」や「病原菌」などを連想し、良くないイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし、微生物というのは人間や自然環境に非常に大きな貢献をしています。お酒を造る酵母などは良く知られていますが、もっと重要なのは、「分解者」としての能力です。

人間が活動すると、様々なものを自然界に放出します。大昔は、主として自然界の微生物がそれらを分解し、自然環境のバランスを保っていました。

ところが、産業革命以降、都市化が進むとともに、様々な化学物質を集中して大量に使うようになり、そのバランスが崩れはじめてしまったのです。19世紀のロンドンやパリでは、水が汚れ、コレラが大流行し、20世紀には日本でも公害問題が起きました。これは、人間が自然界に排出する物質の量が、自然界にいる微生物のもつ分解・浄化能力を越えてしまったためです。

最近は日本でも、きれいな水や空気が商品となってきていますが、汚した水や空気をそのまま自然界に垂れ流せば、我々の住むまわりの水や空気はどんどん汚れていきます。では、どうすればいいのでしょうか。汚した水や空気をきれいにしてから自然界に還せばいいわけです。

水や空気をきれいにする方法はいろいろとありますが、最も有効な方法のひとつは、自然界を真似て、微生物の力を利用する方法です。微生物の能力を見極め、効率的に微生物が働ける環境を整えたり、特殊な能力を持つ微生物を見つけだすことで、従来、自然界では処理しきれなかった大量の排出物や、分解できなかった化学物質を分解し、きれいな水や空気を作るのです。

私は微生物を用いて水や空気をきれいにする研究を行っていますが、微生物は非常に大きな能力を持っています。他種類の化学物質が微生物にとって餌になり、分解されます。私がこの世界に入ったきっかけは、大学時代に先生から次のような話を聞いたことです。

「ストッキングの素材として使われているナイロンという化学物質は、もともと自然界に存在した化学物質ではなく、1938年にアメリカで発明されたものである。ところが、ナイロンが発明されて間もなく、ナイロンを分解できる細菌が発見された。」

なぜ、その細菌はナイロンという、もともと自然界に存在していなかった物質の分解を行う能力を得たのでしょうか。私は微生物の持つ力に非常に大きな驚きを覚えたのです。

もちろん、実際に微生物の力を人間の生産活動に利用するためには、効率化を図り、コストも投資対効果に見合った方法を考えなければなりません。しかし、微生物の特徴は、分解対象である化学物質などがエネルギー源となることであり、機械のように大量の電気エネルギーなどを要しないため、うまくいけば、非常にいいものができる可能性があります。

例えば、私は以前、厨房排水の微生物浄化方法の開発に携わっていました。当時、厨房排水に含まれる油脂分の除去は、生物処理では難しいと言われ、一般的には油脂を物理的に除去する“凝集加圧浮上法”という方法が用いられていました。しかし、集めた油脂を産業廃棄物として処理しなければならず、また臭いもひどいという問題がありました。

これに対して我々は、油脂分解能力の高い特殊な微生物を用いることで、厨房排水の微生物処理を可能にしたのです。さらに、微生物処理で得られる処理水は非常に清澄であるため(写真参照)、簡単な後処理により、中水としてトイレ洗浄水などに再利用することが可能になりました。あるホテルでは、この方法により、ホテル全体の水道使用量の約1/5を、中水で賄っています。

Rhodococcus sp.芳香族分解菌

Rhodococcus sp.芳香族分解菌

厨房排水→中水

厨房排水→中水

微生物の持つ可能性を広げるためには、従来知られていなかった新しい能力を持った微生物を見つけることも大切です。これは微生物を研究するものにとっての醍醐味の一つですが、特殊な微生物だから特殊な環境にしかいないかというと、必ずしもそうではなく、その辺にヒョイと居たりすることもあります。私もこれまで、身近な場所から数種類、新しい菌を見つけ、その研究を行っています。現在も、その中のひとつの菌を使い、トルエンなどの溶媒を含んだ空気をきれいにする技術を開発し、実際の空気浄化に役立てています。最近、大気汚染防止法の改正などもあり、汚れた空気の浄化にも関心が集まり、今後、微生物による空気浄化技術も様々な場面で利用されてくるのではないかと思います。

微生物というのは、非常に気まぐれな面もありますが、上手く付き合うと、信じられないような力を発揮してくれることがあります。私はこれからも、微生物の声に耳を傾け、微生物の働きやすい環境を整えて、きれいな水や空気を自然に還すことで、自然界の微生物のお手伝いをしていきたいと考えています。

プロフィール

画像瀧 寛則
技術センター 建築技術研究所 環境マネジメント研究室 環境システムチーム 主任研究員
1994年入社 技術士(衛生工学部門)
工学研究科環境工学専攻修了

入社当初より、厨房排水処理とその中水利用や石油汚染土壌の浄化、VOC含有ガスの浄化など、建設に関わる水や土、空気、微生物の問題に取り組んできた。また、現在は、バイオマスの資源化にも取り組んでいる。

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