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建築のセキュリティが担うもの

設計本部 建築グループ シニア・アーキテクト
松本 哲弥

分野

食品, 医薬品, ものづくり, 医療・福祉, データセンター

テーマ

セキュリティ・セーフティ

本来、建築計画においてセキュリティとは別段特殊な要件ではありません。それは建築が持つ機能の原点であり、自然の脅威や外敵などから人々の生活を守ることがもともと建築に課せられた大きな役割のひとつだからです。快適性を守る、プライバシーを守る、ということまでをセキュリティの定義に含めると、建築計画とはセキュリティ計画そのものと言ってもいいでしょう。

しかし昨今どんな用途・機能の建物においても、セキュリティに関わる性能が突出して扱われることが多くなりました。国内外における慢性的な治安の悪化や大規模災害のリアルな体験などにより、セキュリティに対する社会的意識が高くなり、更にIT化の浸透や不動産への投資リスク評価などがその計画条件をより複雑にしています。これらの状況を踏まえ、当社では「トータル・セキュリティ」という計画技術分野を設け、より価値のある建築をお客様に提供していく体制を整えています。

ところで、建築のセキュリティとは何から何を守ることなのでしょうか?
私は下記の幾つかの項目(レベル)に仕分けすることができると考えています。
「AからBを守る」としたとき・・

Aとは、

  1. 災害(天災または故意のない人災など)
    地震、火事、台風・・・
  2. 外敵(故意を持った第三者)
    窃盗、強盗、傷害、殺人、テロ、戦争、ハッカー・ウィルス・・・
  3. 内部の不届き者
    企業財産の持ち出し、過失隠蔽、汚職、個人情報の漏洩、いじめ、家庭内暴力、児童虐待・・・
  4. 自分自身
    過失、精神疾患、自殺・・・

Bとは、

  1. 人命
    何はともあれ人命第一
  2. 財産
    金銭に換算できるもの(金品)、精神の拠所となるもの、企業情報、個人情報・・・
  3. 社会機能(経済活動)
    通常の日常生活、企業活動、行政機能・・・
  4. 日常生活の中で確保しておきたいもの
    快適性、利便性、プライバシー・・・

上記項目(AとBの組合せ)の中で私たちが計画上、重要なテーマとして捉えている最新の関心事を幾つかご紹介しましょう。

人命と財産を守る ─都市や建築はどこまで“要塞化”すればいいのか?─

建築計画において最も優先順位が高いセキュリティ機能は、災害から人命を守ることで、これは法的にも義務付けられています。つまり防災機能を満足しておけば、建築のシェルターとしての役割は基本的に確保できていると考えられているのです。

一方、建築主にとっては防犯機能も大きな関心事ですが、通常は主に不信者の侵入防止に重点が置かれ、飛行機が故意にビルに突っ込んだり、大量の爆薬が仕掛けられたりなどという破壊行為は想定していません。

ところが最近ではこれらのテロ行為の方が自然災害と同等かそれ以上の脅威となってきました。天災は過去のデータからその破壊力をある程度想定できますが、人為的な破壊行為は従来の建築計画の予測範囲を超えています。計画する都市や建築のセキュリティレベルをどこに設定すべきか?私たちの仕事はまずそこから始まります。

見えない財産を守る ─サイバーセキュリティシステムの導入─

今までの建築計画では、ほとんどの場合、強固な構造と合理的な導線計画によってセキュリティ機能の根幹が形成され、それにより災害時の避難計画や外敵の侵入防止などを実現させていました。言わばフィジカルなセキュリティシステムです。

しかし昨今では、物理的なモノだけではなく電子データ化された情報を守ることも必要となり、従来のフィジカルな建築機能だけでは手に負えなくなってきました。ハッカーと呼ばれる外敵は、建物の導線とは関係なく、ネットワーク上から侵入してきます。建築的なハード技術による対応は通信回線の防御や電波の遮蔽などがせいぜいであり、その内部に構築されているネットワークシステムによる防御は従来の建築計画の領域外です。

これからはフィジカルとサイバー両セキュリティシステムを合理的に組合せ、最適なセキュリティプランを組み立てることでユーザーの要求に的確に応えることが必要なのです。

社会機能(経済活動)を継続させる ─ビジネス・コンティニュイティの実現─

阪神大震災の時のような大規模災害により都市機能が麻痺する事態を最小限に食い止める。建物も人命を守るだけでなく、日常的な機能を出来る限り損なわないようにする。また、国際社会のなかで活動している企業が一都市の崩壊によりその活動を滞らせるような状況は許されません。

企業経営におけるリスクマネジメントの世界では「ビジネス・コンティニュイティ・プラン(BCP)」と言い、企業活動の継続性を目的としたセキュリティの概念ですが、考え方によっては我々建築設計者の常識を根底から覆します。極端に言うと建物は壊れても情報とその機能が生き残ればいいのです。もちろん人命も大切ですが、それは企業活動を継続させるための人間が必要だからです。

都市や建築が崩壊しても経済活動は止まらせない。都市機能の本質は見た目の空間ではなく、情報とその機能なのだと言わんばかりです。フィジカルな建築計画上の対応も非常時の熱源や電力供給システム、更にバックアップオフィスの提案など、機能維持を優先させた高度なセキュリティシステムが求められています。

敵は内部にも・・・ ─プライバシーの保護と管理システムのジレンマ─

組織内部の人間からその財産を守ることも重要です。金融関連企業や行政機関、研究所や工場などはもちろんですが、ショッピングセンターなどでも第三者に商品や売上金などを盗まれるという心配の他に従業員、パートやアルバイト店員など内部の人間の窃盗等にも配慮した計画とすることを求められます。

そして最近ではいじめや虐待、汚職や過失隠蔽など、身内が身内の人命や財産、信用を失わせてしまうという社会現象に我々は悩まされています。都市計画や建築計画、更にITの技術でこれらのセキュリティを確保するということは、高度な管理社会をつくり上げることを意味します。個人の自由やプライバシーを保護することもセキュリティの重要なテーマであり、私たちは今後しばらくこのジレンマに悩まされることになるでしょう。

セキュリティは人がつくる ─最後まで忘れてはいけないもの─

私たちの都市生活におけるセキュリティ機能の確保には人と人とのコミュニケーションが重要な役割を果たすということを忘れてはいけません。特に都市生活者にとって、何気ない日常の相互存在確認が重要であることは昔と変わりなく、市民の生活テリトリーが地域セキュリティに対して重要な役割を果たすのです。

阪神大震災や昨今頻発している児童誘拐事件などの状況を見てもそれは明らかですし、先般の中越地震でも同様です。また企業活動においてもその倫理観が強く問われており、組織員同士の相互監視機能が重要です。技術だけに頼るのではなく、日常生活の中で培われた地域や組織のコミュニティが重ね合わさることで、より信頼性のある高度なセキュリティシステムが構築され、安全で安心して暮らせる社会を形成することができるのです。

プロフィール

画像松本 哲弥
設計本部 建築グループ シニア・アーキテクト 1988年入社
理工学部建築学科修士修了 一級建築士

主に大規模開発プロジェクトに関わる設計およびプロジェクトマネジメントに携わる。

共同著書:

  • 「策あり!都市再生」(日経アーキテクチュア編)

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