ホーム - 特集 - 大成建設のリニューアル特集 - 第8回 リニューアルテーマ「立体自動倉庫の地震対策」─立体自動倉庫の地震被害とその対策の考え方

大成建設のリニューアル特集 第8回 リニューアルテーマ「立体自動倉庫の地震対策」─立体自動倉庫の地震被害とその対策の考え方

東日本大震災で立体自動倉庫に起きたこと

画像東日本大震災において立体自動倉庫が受けた被害は、強い揺れを受けた地域だけでなく、広い範囲に広がっています。これは、震度7や6強のような強い揺れだけでなく、繰り返し発生した余震や、長周期地震動などにより立体自動倉庫の背の高いラックが大きな影響を受けたためと言われています。

こうした立体自動倉庫の被害状況を調査していくと、構造体そのものの被害よりも、ラックに収容された荷の落下や荷崩れによる被害が多いことがわかってきました。
具体的な状況としては、落下した荷により通路が塞がれたために倉庫機能が停止し、これらを手作業で取り除く必要が生じました。また、こうした作業の間にも強い余震が幾度となく発生したので、上部に残った荷もバランスを崩し、倉庫内が非常に危険な状態になりました。

このため、復旧に向けて、

  • 高所作業を行う専門職(鳶職人)に依頼し、上段に残った荷を撤去する
  • 建設現場の足場材などで人が安全に通れるトンネルを作り安全通路を確保する

などの事前作業が必要となり、手間と時間がかかることになりました。

また、落下の衝撃で「給電トロリール」などの電気系統が破損し、それらの復旧も必要となりました。
部品の破損はストックしている保守部品で修理を行いますが、そのストックの対象は入手困難な特殊部品が多く、今回、破損が多かった「給電トロリール」のような汎用品は早期に調達できるものとして、ストック量は抑えられていました。
しかし、東日本大震災ではこれらの汎用品などを製造するメーカーの工場も被害を受け、部品の生産、出荷ができませんでした。その結果、部品を調達できずに、修理が進まない状況が続きました。

立体自動倉庫の被害の特徴

立体自動倉庫はラックの高さが10m以下の小規模なものから、30mほどの大規模なものまであります。都市部は地価が高く、空間効率の面から20m以上の自動倉庫が多く建設されています。
一般的に背の高い構造物は、上部に行くほど揺れの強さも揺れ幅も大きくなります。東日本大震災では、高さが28mの場所の加速度が、地表面に比べて約5倍になった例もありました。また、こうした背の高いラックは軟らかい構造のため固有周期が長く、長周期地震動の影響を受けやすいことが判明しています。このため、地震そのものの揺れは強くなくても、ラック上部では強く大きく揺れることになり、荷物が振り落される事態が多く発生したと思われます。

一方で、ラック上で荷の滑動が生じたような場合では、荷の落下が少なかったこともわかりました。これは荷(パレット)が「滑る」ことで地震による揺れのエネルギーを吸収し、ラック自体の揺れが小さくなるという制震効果が生じたためです。

自動倉庫の各段の揺れ方(例)

自動倉庫の各段の揺れ方(例)
上段に行くほど揺れが強くなり、この例では5倍の揺れになっています。(拡大)

パレットの滑動による制震効果

パレットの滑動による制震効果
荷物が滑り始めると、そこに掛かる力がそれ以上大きくならないことがわかります。

立体自動倉庫における具体的な被害とその特徴は、次のようにまとめられます。

  • ラック自体の構造的被害は小さかった
  • ラック上部からの荷崩れや落下が多く発生した
  • 荷落下による商品自体の被害が発生した
  • 落下した荷の片づけ(搬出・処分)期間の業務休止による損失が発生した
  • 業務再開後の荷姿異常などの障害も発生した
  • 荷落下による電気系統の破損が生じた
  • 破損した電気系統汎用部品の調達が不能になり、修理に時間を要した

こうした複合的な被害により復旧にかなりの時間を要した上に、不稼働損失によってシェア低下を招き、復旧後の営業的な損失にもつながりました。
こうした被害の特徴から、まず何よりも荷の落下を防ぐことが重要と言えます。

既存立体自動倉庫の荷落下を防ぐさまざまな対策

今使っている倉庫への対策は、眼の前に迫った緊急の課題です。
先に挙げた震度5程度でも発生しうる立体自動倉庫の被害への対策で重要なのは、まず「今できること」から始め、「複数の対処法を組み合わせる」ことによって着実に実施していくことでしょう。

何よりも荷の落下を防止することを考えると、ソフトとハードの2つの側面からのアプローチがあります。

ソフト面からは、重量物をなるべく棚の下部に収納して重心を下げるなど、荷の収納方法を変えることによってラックが大きく揺れないようにする方法が考えられます。これには、引当ソフトのプログラミングを変更することで対応できます(1)。

ハード面からの対策では、ストレッチフィルムなどにより荷を一体化して荷崩れを防ぎ、落下しにくくしたり、パレットストッパーなどの落下止めをラックに施したりするなどの方法があります(2)。
また、荷が落下した場合でもその後の復旧時に大きな妨げとなった電気系統の破損を防止する為のカバーや、緊急地震速報などと連動させた緊急停止機能の導入も重要な施策となります(3)。

立体自動倉庫の地震対策

立体自動倉庫の地震対策(拡大)
制震装置の導入に加え上記対策を併せて実施することで、より効果的な対策が可能となります。

このように対策には様々な選択肢が考えられ、これらをバランスよく組み合わせた対策を行うことが重要です。
しかし、やはり根本的な対策は、ラックの揺れをいかに抑えるかということです。ラックの揺れを低減できれば、これらの対策もさらに有効になってきます。

揺れを抑える最も有効な方法である「免震」は、地震の揺れそのものを建物やラックに伝えにくくする技術です。効果は大きいものの、建物やラックの足元に免震装置を挿入する必要があり、大掛かりな工事が必要です。
一方で「制震」はラックの揺れにブレーキをかける技術です。免震ほどの効果はないものの、ラック内に揺れを吸収する装置を設置するだけの比較的簡易な工事で導入できます。
課題は、倉庫を稼働させながら、いかに制震装置を設置するかということです。

次回は、既存の立体自動倉庫に導入できる制震技術に求められる要件を整理し、その要件に応える制震技術の具体例について紹介します。

関連記事

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

第11回 リニューアルテーマ「非構造部材(天井)の地震対策」その2

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

第10回 リニューアルテーマ「非構造部材(天井)の地震対策」その1

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

第9回 リニューアルテーマ「立体自動倉庫の地震対策」─既存立体倉庫の減災とサプライチェーンの対策へ

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

第7回 リニューアルテーマ「立体自動倉庫の地震対策」─サプライチェーンと物流の事業継続

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

第6回 リニューアルテーマ「超高層ビルの長周期地震動対策」─より安全、安心に向けての対策

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

第5回 リニューアルテーマ「超高層ビルの長周期地震動対策」─超高層ビルへの影響とリスク、その対策

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

第4回 リニューアルテーマ「超高層ビルの長周期地震動対策」─長周期地震動とは何か?

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

第3回 リニューアルテーマ「省エネ」─時代とともに進化する、オフィスビルの空調システム

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

第2回 リニューアルテーマ「省エネ」─省エネ、CO2対策と補助金活用支援

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

第1回 リニューアルテーマ「省エネ」─今からでも間に合う節電対策

画像

特集 大成建設のリニューアル特集

建物はここまで生まれ変わる!!「大成建設のリニューアル」

画像

事例ライブラリ[ものづくりの施設]

大成建設株式会社 技術センター研究本館

研究者の声を反映して生まれ変わった研究施設。リニューアルは大成功?